Reminiscence
「ならば言えぬ」
ランジェの言葉にうなずいてからフェンは短く問いかけた。
「師匠と?」
ランジェは黙っていたが、その瞳と視線は肯定を表しているように見えた。
フェンは再度うなずいた。
「なら、いい」
口調は簡素なものだったが、フェンの口元は満足げな笑みを浮かべていた。
ランジェはしっぽをゆらりと揺らし、前足をテーブルにとん、と置いた。
「それよりも、今度はお前の約束があるだろう。わかるぞ。まだ渡していないのだろう」
フェンもミカゲもその口ぶりでなんのことを言っているのかすぐに察した。
フェンはうなずいた。
「声が戻ってから、渡したかった」
「どうして?」
ミカゲが聞くと、フェンは意味ありげに微笑んだ。
「筆談じゃ、不便」
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