Reminiscence
フェンははじかれたように走りだし、ミカゲに抱き着いた。
「ごめん、ごめんミカゲ。わ……ぼくのせいで、議員を辞めてまで来させてしまって」
ミカゲはしばらく驚いたように固まっていたが、フェンの言葉を聞いて、微笑みながらその背中をやさしくたたいた。
「いいのよ。ダンテから任されてるっていうのもあるけれど、妹を一人王都に行かせることなんてできないもの」
「い、今は男の子だよ……ミカゲ」
「……そう、そういう選択をしたのね。と、いうことは……あなたは騎士として一生を過ごすつもりはないのね?」
「ごめん……」
ミカゲはわざわざ今まで築きあげてきた地位を捨てて来てくれたのに、フェンはしかるべき仕事をしたら、騎士を辞めてしまうのだ。
それが後ろめたく、申し訳なかった。
ミカゲは何と言うだろうか。どうしてそうしてしまったのかと怒るだろうか。それとも自分が安定した地位をいつか捨てることを悲しく思うのだろうか。
しかし、ミカゲのつぶやきはどちらでもなかった。
「良かった」
「え?」
「本当は心配だったの。風のように自由であるはずの貴女が、騎士という地位のせいで、自由を失ってしまうのではないかって。貴女は、貴女のしたいように生きるべきなのだから。……貴女の運命は誰にも侵せないものだから」
「……うん。ありがとう、ミカゲ」
フェンはミカゲから離れて、微笑んだ。
ミカゲもフェンの肩を励ますように叩いて微笑み返した。
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