モノクロ
保健の先生に送り出され引き戸の扉が閉まると、それまで気にならなかった和気藹々とした声が耳につく。

憂鬱な午後の授業が終わったからなのだとは思うけれど、今の私には辛いものがあった。


(クラスのみんなも、事件が無ければ、あんな風に……)



考えて、考えようとして、やめた。


たらればは自分の状況を悪く感じてしまうだけだ。特に、こんな時は。

頭を軽くおさえながら、1段、2段、3段と階段をのぼりはじめる。




……と、その時。



『……ふふふっ』



――――嗤う”声”、だった。それは確かに、背後から聞こえた、女の声。


反射的に後ろを振り向けば、そこにはただのぼりはじめた階段があるだけ。



何も、ない。

そう。何も―――。


けれど、何故だろう。

ドクドクと心臓は早鐘を打ちはじめ、背中に嫌な汗が伝う。

指先はどんどん体温が低くなるように冷たく、ゾクリとした寒気さえ覚えた。


(な、に。これ……っ、やだ、嫌………っ!)



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