モノクロ
同化、とは。

「それは、その相手は、私にとってのあの子……みたいなもの?」

「ああ、察しがいいな。みたいなもの、じゃなくて本当にそのままの関係さ。」


そう言うと、透夜は私の眉間に小突くように指を刺した。


「鹿島にとってのあの子。それから俺にとってのあいつは、裏界で暮らす別人格の自分自身。性格は多少違くても、見た目はほとんど瓜二つ。”裏界”っていうだけあって、奴らは残酷。言い換えれば、影なんだ。」



それはつまり、私は今まで残酷な影の自分自身に苦しめられて来たという事か。

マグカップの柄を握りしめる。


「人間ってのは、裏界とこちらの表の二人で成り立ってる。だからこちら側もあちら側も個々では不完全なんだ。けれどもそれが本来のあちらの完全体。わかりやすく例えるなら…そうだな、モノクロの写真。あれって、白と黒が完全体だろ? こちらが輪郭線の無い絵画であちらが白黒のリアルなモノクロ写真ってところか。」


今まで生きてきた現実とあまりにも掛け離れた話に頭がグラグラする。

そんな私をよそに、透夜は眉間から指をどかし、音も立てずに立ち上がると、黙って扉の方へと歩いていく。

ドアを開くキイ、という音が部屋に響くと、透夜はこちらを向いて一言。


「来いよ、鹿島。裏界の力がどれだけ身体を蝕んでいるか、見せてやる。」



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