はちみつ色
怒るか蹴られるかするんじゃないかって一瞬だけ身構えた。


でも、杏は動く気配を見せずクスクスと笑みを零しているだけ。


唐沢が言ってた【ミステリアス】ってのが、分かるような気がする。


杏の前には目に見えない分厚い壁があって、絶対その向こう側を覗けないような雰囲気で。


だから、小さな微笑でさえ、その意図が分からずに翻弄されてしまいそうになる。


「慣れてはないよ?負けず嫌いなだけだよ」


視線を合わせないまま、杏の落ち着いた声だけが耳に届いた。


「にしては、ビビッてなかったじゃん?」


「・・・・・・怖くないもーん」


まったくだ。


刃物見せられて、逃げるどころか状況を楽しんでる様に見えたしな。


《・・・・・・冗談・・・?》


あの笑みは「逃げるなんてもったいない」「あたしが負けるとでも?」って言葉の言い回しだったんだろうか・・・という気にもなってくる。


うーん・・・・・・不思議な女だ。
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