月下の踊り子
最終章『月下の踊り子』
人は何故、この地に生を与ったのだろう。
そう望まれたから?いや、違う。
全ての命が望まれるべくして生まれたとは限らない。
全ての人間が望まれて生まれてきたなんて、そんな戯言は偽善者の綺麗事に過ぎない。
それはきっと否定から生まれた結果。
この世界の全ては否定で成り立っている。
その人間が生まれないという事実が否定されたからこそ、その人間は生まれた。
逆にその人間が死ぬ時はその人間が生きるという事実が否定されたからこそ死ぬのだ。
結果の前に選択肢は存在しない。
選んだつもりではいられるだろう。
しかしその道は結局、一本しかないのだ。
始まりから終わりという長い長い一本道。
さぁ物語の終焉の幕を上げよう。
羽鳥淳二と言う名の看守と香川舞歌と言う名の囚人が迎える最後の舞台を――。
The last song:A dancer under the moon