月下の踊り子





昼の休憩時間。


読みかけの小説を閉じ、大きな溜息をついた。


経験した事のない不安に駆られ、間近に迫った運命の日を漠然と見詰める。


いよいよ明日が舞歌の死刑執行日。


時間と言うものはその渦中にいれば長く感じていられるのだが、過去の事になれば随分と短く感じる。


舞歌と知り合って一ヶ月。


その一ヶ月はまるで数十年の幸せを凝縮させた様だった。


それも今、思い返せばほんの一瞬の出来事のようだ。


この時間は私にとって看守生活十年の中で最も大切な時間だった。


そろそろ昼の休憩が終わる。


時間は感覚だけで計っていた。


実際はもう終わっているのかもしれないし、二十分ほど余裕があるのかもしれない。




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