月下の踊り子
今、時計を見るのは嫌だった。
秒針が進む度、舞歌の命を蝕んでいくように思えてならなかったからだ。
舞歌は自分の人生を幸せに思えたのだろうか。
終わりの見えない生活の中では生まれてきて良かったなんて考えは出来ないだろうが舞歌は違う。
すぐ目の前に終わりがある舞歌は今、何を思っているのだろう。
死刑執行の際、私は舞歌の死を前にして、まともな精神状態を保っていられるだろうか。
大切な人の死。しかもその死は自分が属する組織が与えるものだ。
何と滑稽な話だろう。
部屋の隅に置かれた鏡を見て自分が笑っている事に気付いた。
自嘲の笑み。
舞歌の死を考えている最中でも笑える余裕のある自分が殺してやりたいほど憎らしかった。