月下の踊り子
「どうしたんだよ。それ」
途方もなく歩いていると偶然、山口と出くわした。
手に巻かれた包帯を見て、山口が訊ねる。
どうしたのかと訊かれれば自分で刺したとしか言いようがない。
だがそう言ってしまうと次に「どうして?」と訊かれるのは目に見えていた。
その理由は自分でも分からない。
だから適当に「不注意で机の角で傷付けた」と答えた。
手の甲がズキズキと痛む。
この痛みは自分の馬鹿げた行為の代償だ。
優しさのない愚かな痛み。
しかし痛みがある限り、二度とあのような馬鹿な真似はしないだろう。