月下の踊り子




「なぁ山口。一つ訊いて良いか」

「ん、良いけどどうしたんだよ改まって」


「お前、囚人であろうと看守であろうと分け隔てなく此処にいる人間と巧く付き合っているじゃないか。

その、例えば、よく話していた囚人の死刑執行の時、お前は何を考えている」


「何を考えている、か。まぁ大体はそいつとの時間を思い返していたな。こいつとはあんな話をしたな~みたいな」

「その囚人が死んだ時は悲しかったか?」


「まぁ悲しいっていや悲しいさ。だけどそいつは近い内に死ぬって前提で付き合いをしてたんだからその場だけの悲しみってのが正しい言い方かな。

冷たいと思われるかもしれないけどさ」


「いや」



この場所で囚人が死ぬのは当たり前の事だ。


理屈じゃない。


死ぬと分かっていての付き合いだとしても仕事で知り合いを殺して、その場だけの悲しみで済むだろうか。




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