月下の踊り子
必要ないとは言ったが決してそんな事はない。
舞歌が気兼ねなく話せる人間はこの監獄――いや、この世界の中で私の知る限り、山口と私くらいなものだ。
だが、山口が私に気を使ってくれている事は分かる。
だから私は山口の言い分にただ頷く事しかしなかった。
少し癪だが本当にこいつには頭が上がらない。
「なぁ羽鳥。少し時間良いか?」
「ああ、私は別に良いがお前の方は仕事に戻らなくて良いのか」
「別に構やしねぇだろ。少しくらいサボってたってバレやしねぇさ」
いや、普通にバレると思うのだが。そんなに看守の数は多くないのだし。
百本以上の木がある森であれば一本くらいなくなったって誰も気付きはしないだろうが数本しかない場所で一本でも木がなくなったら誰でも簡単に気付くだろう。
「良いから良いから。外、行こうぜ」
「流石に職務放棄は不味いだろう」
「誰が監獄の外に出るって言ったよ。俺はこの建物から出ろうって言ったんだよ。庭に行こうぜ」
山口は場所だけ告げて、一人で庭に向かった。――と思ったらくるりと振り返って、
「付いて来いよ!」
そう突っ込まれたので、仕方なく山口の後ろに続いた。