月下の踊り子
「それでその猫は今もこの庭にいるのか」
思い出を淡々と語る山口に訊ねる。
「いや、死んだよ。殺されたってのが正しいのかもしれない」
猫の最後は本当に呆気ないものだった。
いつもいるこの庭で首を変な方向に曲げたまま、のたれ死んでいた。
誰がやったのかは知らないが蹴飛ばされて首の骨を折ったのだろう。
舞歌はその変わり果てた猫を見ると何かを堪えるようにして、その猫を土の中に埋めてお墓を作ってあげた。
その背中が山口にはとても儚く、泣いている様に見えた。
「何でかなぁ……。囚人とは近い内に死ぬ相手として割り切って付き合ってたけど、お前に感化されたのかな。
舞歌ちゃんが死んだら多分、今までにないくらい悲しいや」
「山口……」
それで自分が呼び出された理由を理解した。
つまり山口は泣き言を聞いて欲しかったのだ。