月下の踊り子
コツ――、コツ――、コツ――。
薄汚れたアスファルトを踏みしめるブーツの音が不規則に鳴り響く。
私の周りに在るのは幾つかの監獄。全て死刑囚の檻である。
夜も更け、静寂に包まれた空間の中、看守という職務を事務的にこなす。
要は囚人の見回り。
懐中電灯で一つ一つ牢の中を照らし、囚人の姿を確かめる。
見回りの仕事に感情などない。
この監獄から脱獄できる訳がないし、やる事と言えば消灯時間が過ぎているので就寝に入っていない囚人を注意するくらいだ。
そろそろ終わりか、と腕時計を眺める。
自然に足早になっていたが、私はその足を突然、ぴたりと止めた。
「とっくに消灯時間過ぎてるぞ」
一つの牢の前に立ち、冷たく言い放つ。
「あっすみません。看守さん」
窓辺の鉄格子を通じて曇り空を眺めていた少女が驚いた様に振り返り、苦笑いを浮かべそそくさと就寝の準備に取り掛かる。