『仰せのままに、お嬢様』《完》
     ☆☆☆☆☆



「英国の執事養成学校を
卒業した私は、ロンドン
郊外に住むとある名家の
執事となりました。

そちらは英国貴族の血を
引く由緒ある一家でしたが、
実際のところは事業に失敗し
衰退しており――

私がお世話をするのは、
病床に臥すご年配の当主と
若旦那様、その奥様。
そしてお二方のお子様の、
10歳の少年でした」


とうとうと流れる楓さんの
話を、あたしはベッドに
上半身を起こして座りながら、
真剣に聞いていた。


「正直に申し上げますと、
生気のない寂しい家庭で
ございました。

生活に困難しないだけの
財産はおありでしたが、
当主は回復の見込みのない
病で臥せり――

そしてそれだけでなく、
10歳のご子息は、心の病を
お持ちだったのです」


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