放課後は、秘密の時間…
ここまで言われて、やっと、あたしはことの重大さを思い知った。


心臓が激しく鳴り響いてる。

市川君にも聞こえるんじゃないかって思うくらい、それは大きい。


……ううん、きっと聞こえてる。

だってあたし達は今、こんなに近いんだから。


市川君はあたしを見下ろしたまま、余裕の表情を浮かべていた。

その二つの大きな目に、あたしが不安気な顔をして映ってる。


あたし、今こんな顔してるんだ……


考えたくなんかないのに、想像しちゃうのは最悪なことばかり。


ここは、校舎の三階の奥の、さらに奥にある部屋。

放課後の美術室になんて、教師も生徒もめったに来ない。


もしも、何かされて助けを呼んだとしても……

誰も気づいてくれないかもしれない。


あたしを掴んだ彼の手の力は、さっきよりも、かすかに強くなっている。


……怖い……

これから、あたし……どうなるの?


まるで舌が石になったみたいに重くて、言葉は喉の奥につまって出てこない。


「……先生」


ゆっくり近づいてくる、市川君の唇。


いやっ……


――キスされる……!!

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