放課後は、秘密の時間…
肩に置かれた手が、そのまま降りていって、あたしの背中を上下に撫でた。

なだめるように優しく、何度も。


「だから大丈夫。もう少しでやばかったけど」

「………」

「間に合って本当によかった」


呟いて、市川君はあたしをゆっくりと抱きしめた。

それはまるで、壊れ物に触れるような手つきで……胸の奥が、ぎゅっとなる。


「市川君が……助けてくれたの?」

「当たり前だろ」

「どうして?だって、今日は美術室には来ないでって言ったのに……」

「嘘つくの、下手すぎなんだよ」

「……わかってた、の?」

「気づかない方がおかしいって。一日中、様子変だったし」


市川君……

あれからあたしのこと、ずっと気にかけてくれてたの……?


「助けるの遅くなって、ごめん」

「ううん……」


胸がいっぱいで、それ以上はもう言葉にならなかった。

こうして彼の体温を感じていると、安心感が押し寄せて。


「先生、泣いてるの?」

「……え?」


あたしの頬は、いつの間にか涙で濡れていた。

それを、彼の唇がそっと拭っていく。


「怖かったよな」

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