放課後は、秘密の時間…
怖かったよ……

すごく怖かった。


もし市川君が助けに来てくれなかったら、あたし今頃――


「震えてる」


市川君が握ったあたしの右手は、小刻みにカタカタと震えていた。


「先生、俺、ここにいるから」


子どもにするみたいに髪を撫でられた瞬間、あたしの目から、せきを切ったみたいに涙が溢れ出して。

こぼれた雫が、市川君の制服に染み込んでいく。


「もう大丈夫だよ」

「……こわ…かっ……よ……」

「うん」

「…っく……もう、だめ…って…思っ…」

「うん」


言葉にならない言葉に、彼が何度も何度も頷く。


「怖い思いさせて、ごめん」


違うよ……

市川君が悪いわけじゃない。


そう言ってあげたかったけど、溢れてくる涙で声にならなくて。


そうして、あたしが泣き止むまで、市川君はあたしのそばにいてくれた。


「もう大丈夫だから」


そんな言葉を、ただ繰り返して――……

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