放課後は、秘密の時間…
呟きみたいに小さなその言葉はあたしには拾えなくて、聞き返すと「何でもないから」と、市川君はただ首を振った。

それから、思い出したように、


「そうだ。先生助けるときにさ、あいつには色々口止めしといたから」


あいつって……

堤君のこと、だよね……


「俺たちのことは、あいつ絶対言わないから安心して。先生の実習に迷惑はかかんないから……ていうか、俺がもう十分迷惑かけてる、けど」


そうだよ、初めは確かに迷惑だった。

でも、今は――


その後は言えずに、視線を彷徨わせた先に見えたのは、市川君の右手の甲。

あたしは思わず手を伸ばした。


「真っ赤になってる……これ、どうしたの?」

「うん、ちょっと。先生が気にすることじゃないよ」


……もしかして。

あたしを助けるためにした怪我なの?


きっと、そうだ……

だって、授業で鉛筆を持っていたときにはなかったもの。


「ダメだよ、ちゃんと冷やさないと。腫れるかもだし……待ってて、あたしハンカチ濡らしてく、……ぇっ?」


立ち上がろうとしたけど、それはできなかった。

市川君の指が、服ごしにあたしの手首を繋いで引き止めてる。


「市川君?」

「何で?何で俺なんかに優しくすんの?さっきから、先生のために抑えてんのに、我慢できなくなるじゃん……」

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