放課後は、秘密の時間…
すっと伸ばされた腕が、あたしの身体を引き寄せた。


「俺……どうしようもないくらい、先生が好きだ」


……どうして?


急に、涙がこぼれそうになって。

切なくて、胸が張り裂けそう。


潤んだあたしの瞳を見て、市川君が少しだけ悲しそうに目を細める。


「まだ怖いの?」

「……ちが……」


どうして涙が溢れてくるのか。

あたしにもわからない。


でも、胸が苦しくて。

なんだか、いっぱいで。


「俺のことも怖い?」


言葉にならなくて、あたしは首を振った。


市川君は怖くない。

市川君の手は、こんなに優しくあたしに触れる。


「先生……」


ゆっくりと、彼が近づいてくる。

あたしは、ただ静かに目を閉じた。


ためらいがちにそっと触れる唇。


こんなにぎこちなくて優しいキスを、あたしは知らない。

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