放課後は、秘密の時間…
とっさに、ぎゅっと固く目を閉じた。


「……大也っ……」


唇が触れるか触れないかっていうときに、無意識に出た言葉。


『大也』


あたしが付き合ってる人の名前。

大好きな、彼氏の名前。


その瞬間、ピタリと動きを止めた市川君は、


「逆効果だよ、センセ」


強引に、片手であたしの顎を持ち上げて。

嫌がって暴れるあたしを押さえつけたまま、


「ゃぁっ……んっ…んん……」


ついに唇を重ねた――……


……大也っ!!

大也、助けて……大也……


今頃、違う高校で同じく教育実習をしてる大也に、そんな心の叫びは届くはずもない。

わかってるけど、あたしは夢中で大也の名前を頭の中で呼び続けた。


全身が市川君を拒んでいるのに、どうすることもできなくて。

恐怖と不安に強張ったあたしの身体は、まるで金縛りにあったみたいに動かない。


そのとき――、


カシャッ……


静かな室内に、小さなシャッター音が響いた。

< 12 / 344 >

この作品をシェア

pagetop