放課後は、秘密の時間…
「傘忘れちゃったの。だから、もう少し雨が弱くなってから帰るかな」

「じゃ、俺の傘に入っていけばいいじゃん」

「はっ?」


当然とばかりに言って、市川君はあたしの手を引いた。


「バス停だろ?送ってってやるよ」

「い、いいよっ……だって誰かに見られたらどうするの?」

「こんな遅い時間に、誰が見るって言うんだよ。部活やってるヤツラなら、もうとっくに帰ってる」

「でも……やっぱりダメ!」

「じゃ、先生がこの傘使って」


透明なビニール傘をぐいっと差し出した市川君。

戸惑っているあたしの手に、傘の柄を無理やり握らせた。


「使ってって……それじゃ、市川君はどうするの?」

「俺家近いから、傘なくても平気」

「そんなのダメだよ」

「先生が濡れるよりいいよ」

「よくない!風邪ひいちゃうよ」


傘を返そうとしてるあたしのことなんか無視して、市川君は今にも玄関を出ようとしてる。


「わか、わかったから!傘、一緒に使うから」


ぴたりと足を止めて振り返ると、


「じゃ、一緒に帰ろう」


彼の嬉しそうな笑顔。


あたし……

絶対市川君の思い通りになってる……

< 133 / 344 >

この作品をシェア

pagetop