放課後は、秘密の時間…
市川君は首をかしげて、あたしの言葉を待ってる。


「先生?」


黒目がちの大きな目が、あたしを心配そうに見つめた。


「何かあったの?」

「……何も、ないよ」

「前もそう言って、堤に襲われかけただろ?またあいつが、何かしてきた?」

「違う、違うの……」


言わなきゃ……

もう会えないって。


こんな風に会うのは、今日が最後だって。


「市川君、ここには……」

「ここ?」

「ここには、もう来ないで」

「え?」

「放課後来るのとか、やめてほしいの」

「センセ……?」

「それ、言いたかっただけだから」


そのまま、美術室を出ようとしたあたしの腕を、市川君が掴んだ。


「待ってよ先生!本気で言ってんの?」

「……本気、だよ」

「何で急にそんなことっ……」


市川君が声を荒げるのも、無理はない。

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