放課後は、秘密の時間…
「本気だよ。今だって、そう思ってるんだから」


肩にあった彼の手が、すっと離れていく。

体温だけを、その場所に残して。


「なぁ、先生。先生が俺と一緒にいてくれたのは、少しでも俺のこと気にかけてくれてたからじゃねぇの?」


必死な目が、あたしに訴えてる。


「先生と一緒にいる時間を楽しいって思ってたのは、俺だけだったのかよ?」


答えないで、あたしは市川君から視線を逸らした。



――もう、限界。


これ以上、ここにいられない。


実習生っていうあたしの立場も、大也のことも全部捨てて……

本当は市川君を好きだって、言いたくなるから。


「市川君……さよなら」


あたしは彼から離れて、美術室を出ようと歩き出した。


膝が崩れないように力を込めて。

指が震えないように握り締めて。


「――弁当作ってくれるって、約束したじゃん!」


廊下に出た瞬間、背中に投げかけられた最後の言葉。

こらえきれなくなった涙が、ついに落ちていった。


あたしは、夢中で廊下を駆け出していた。

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