放課後は、秘密の時間…
「――わかりました。では、残りの時間、授業は僕がします。生徒も落ちついていられないでしょうから」

「では、私は?」

「二宮先生は、市川についててくれませんか?生憎、保険医が今日は出張でいないんですよ」

「そうでしたか……」

「よろしくお願いします」



保健室のドアを開けると、消毒薬の匂いが鼻についた。


「あ、あかりちゃん!薬って、これでいいの?」


あたしに気が付いた斉藤君が、箱に入った解熱剤を差し出す。


「うん、それで大丈夫。飲ませてあげて」


あとは、何か冷やすもの……


薬品が並んだ戸棚の中を探したけれど、額に貼る冷却シートは見当たらない。

仕方なく、近くの冷凍庫にあった氷を水と一緒に洗面器に入れて、タオルを絞った。


こんな時に限って、保健室の先生がいないなんて……


カーテンで仕切られたベッドの一つに、市川君は苦しそうに横になっていた。

おでこに冷たいタオルをそっと乗せると、うっすらと目を開く。


「……先生……?」

「冷たいと思うけど、我慢してね」


授業中、一緒にいたのに……

生徒の体調が悪いことに気がつけなかったなんて、あたしは教師として失格だ。


どうして、もっと早く気付いてあげられなかったんだろう?

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