放課後は、秘密の時間…
左手を掴んで放さない彼の手に、あたしは包みこむように右手を重ねた。


「どこ…にも、行くな、よ……」

「うん、ここにいるから」

「約束、だから」

「わかった、約束ね」


薬が効いてきたのか、市川君はふっとまぶたを下ろした。

すぐに、寝息が聞こえてくる。


額に張りついた髪をそっと払って、汗をタオルで拭く。

今のあたしには、こんなことしか出来ない。


温かくなってしまったタオルを交換しようと、あたしが市川君の手を放すと、


「……先生…行くな…」


市川君が、呟いた。


「……市川君?」


名前を呼んでも、反応はない。


寝言かな?

……あたしの夢でも見てるの……?


タオルを額に乗せて、あたしはもう一度市川君の手を握った。


「どこにも、行かないよ……」


こんな市川君を、一人置いていくことなんて出来ないよ。


幸い、この後に授業はもうない。

今日はこのまま、市川君の傍にいよう……

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