放課後は、秘密の時間…
第十六章 包容
テーブルの上にある、小さなメモ。

いつだったか、市川君が「持ってるだけでもいいから」と、あたしの手に握らせていったものだ。


そこにある番号の通りに、携帯電話の数字ボタンを押していく。

あたしの指は、まるで氷のように冷たくて、少しだけ震えていた。


彼に電話をかけるのは、これが最初で最後。


まさか、この番号をこんな風に使うなんて、思いもしなかったな……


電話を耳に当てると、コール音が遠くで響いた。


市川君は、出てくれるのかな……


出てほしくもないし、出てほしいとも思ってる。

そんな、自分でもよく分からない想いが、あたしの心の中に渦巻いていた。


「――もしもし?」


……市川君……


受話器越しに声を聞いた瞬間、あたしの視界が一瞬で滲んだ。


「もしもし?」


張り裂けそうなほど、胸が痛い。


「もしかして、先生?」


涙をぐっと我慢して、声を絞り出した。


「市川君……」

「やっぱり。先生、どうしたの?」

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