放課後は、秘密の時間…
目に映ったのは、風に揺れる柔らかい茶色の髪。


「……いちか…わ…く……」


向こう側のホームに、肩で大きく呼吸をしてる彼がいた。


こみ上げてくる涙で、視界が一瞬で歪む。

辛すぎて、その姿を見ていることもできない。


「あいつ……?」


驚いた表情を浮かべた大也が、あたしを見下ろした。


「……大也……あた、し……」


胸が痛くて、苦しい。

膝が震えて、立ってるのがやっとだ。


「大丈夫だよ。俺があかりの傍にいるから」


崩れそうなあたしの体を、大也の手が支える。


「あいつのことも、全部忘れさせてみせるから」


本当に、忘れられる……?

突き上げるこの痛みも、いつかは消えるの?


こんなに、苦しいのに――……


「センセ――」


あたしを呼ぶ彼の声は、到着した電車の音に掻き消された。

彼の姿も、車体に阻まれてもう見えない。

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