放課後は、秘密の時間…
溢れた涙を、大也の指が、そっと拭っていった。


「あかり……」

「どこでもいい……連れてって」


市川君の声が聞こえないところまで、連れて行って。


「お願いっ…たし、もう……」

「――わかった。行こう?」


手を引かれるまま、あたしは電車に乗り込んだ。


「先生っ、行くなよ!」


早く、ドアを閉めて。

市川君の声が、届かないように。


「先生!」


もう、呼ばないでよ。

引き止めたりなんかしないで。


大也の腕が、あたしの体を引き寄せて、きつく抱きしめた。


「あかり、大丈夫だから」


『ドアが閉まります。 ご注意下さい』


シューッという機械音と同時に、彼の最後の声が聞こえた。


「先生っ……行くな―――!」


さよなら、市川君――……

< 212 / 344 >

この作品をシェア

pagetop