放課後は、秘密の時間…
「センセ」

「え?」


ささやくような、小さい声。


振り向くと、あたしを見上げて、市川君がニヤニヤ笑ってる。

そして、あたしだけに見えるように、ポケットから半分出した携帯電話をトントンと指で叩いた。


視線を落とすと、そこには“あの”画像が――


「ちょっ……!」


思わず大声を出しそうになって。

教室中に響き渡る前に、間一髪のところで口を塞いだあたし。


今は授業中で。

あたしは『先生』で、彼は『生徒』で。


こんな大勢の中で、彼に何かできるはずもない。


「放課後、美術室でね、センセ」


市川君は小さな声でそう付け足すと、ひょうひょうとした顔でデッサンを続けてる。


「せんせーこっち、あたしのも見て下さいっ!」

「あっ……はい、すぐ行きますっ……」


他の生徒に呼ばれて、市川君に反論する暇もないまま、仕方なくその場を離れたあたし。


授業に集中しなきゃいけないのに……

ふとしたときに、市川君の言葉が頭の中を駆け巡る。


そうこうしているうちに、授業の終わりを告げる鐘が鳴って。

あたしの人生初めての授業は、緊張と不安でいっぱいのまま、幕を閉じたんだ。

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