放課後は、秘密の時間…
彼の腕に、一層力がこもった。


「もう、あいつのとこに返さねぇから……」

「……あいつって、」

「今はあいつのこと好きでも、絶対いつか俺の方向かせてみせる」


あたしの言葉を遮ったまま、市川君は続ける。


「だから、先生、どこにも行くなよ」

「……あの、市川君?」

「つーか、行かせねぇ」


ぎゅうっと抱きしめられて、あたしは身動き一つ出来ない。


視界の端に映った斉藤君が困ったように笑って、その後小さく手を振った。


『じゃね、あかりちゃん』


そう口だけ動かして、斉藤君の背中はあっという間に人ごみの中に消えていった。

残されたあたしは、まだ、この状況が飲み込めずにいる。


聞こえてくるのは早鐘みたいな市川君の心音と、


「……きだよ」


聞き取れないほどの呟き。


「え……?」

「俺の方が絶対好きだ、だから」


市川君……


「俺の隣に――ここにいてよ」

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