放課後は、秘密の時間…
「先生、泣かないでよ?」


なだめようとする市川君の声は、少し焦ってる。


だけど、あたしを泣かせた原因の90パーセント以上は市川君で。

そんな彼に泣くなって言われても、素直に頷けるはずもない。


俯いて泣き続けるあたしに、市川君はもう一度手を伸ばして、


「ごめん、先生……」


両手で頬を包んで、そっとあたしの涙を唇で拭った。


「……い…っく……かわ、く…っ……」

「でも、からかってるわけじゃないんだ」


まっすぐな目が、あたしを正面から見つめてる。

あたしの頬に薄く残った涙の跡を親指でふきながら、彼が続けた。


「先生のこと、本気で好きなんだよ」

「……だか、ら…冗談は、」

「冗談じゃないって、何度言ったら信じてくれるわけ?」

「だってあたし、この高校に来てまだそんなに経ってないんだよ?一体あたしのどこが好きだって言うのよ!?」


そうだよ……

会ったばかりで、しかもあたしと市川君の接点なんて、ほとんどないじゃない。


ただあたしが市川君のクラスの担当になった、それだけ。


初めて話したのだって、つい最近なのに……

好きとか言われたって困るし、信じられないよ。


あたしの何を知って、何に惹かれたっていうの?

< 29 / 344 >

この作品をシェア

pagetop