放課後は、秘密の時間…
どんな些細な変化でも、彼女のことなら分かってしまう。

それだけの長い時間を、俺達は過ごしてきたから。



あかりの瞳にかかった、薄い涙の膜。

それが出来た理由を、彼女に聞かなくても、俺はすぐに理解した。


ホーム向こう側で、あかりだけを強く見つめるそいつ。


俺と同じ目をしている、と思った。

一人の人を強く、時に優しく想う目。


想ってきた時間は、比べるまでもなく、俺の方が長い。

けれど、気持ちの大きさは同じぐらいなのかもしれない。


そう冷静に考える一方で、同時に、どうしようもない悔しさを感じていた。


彼女の心が、今はあいつのものだと思うと――


お前さえいなければ、俺とあかりの関係は何も変わらなかった。

ずっと、一緒にいられたはずなのに。


俺は泣きじゃくるあかりを抱きしめた。

自然と腕に力がこもる。


渡したくない。

目の前にあいつがいるからか、一層強く、そう思う。


連れてって、とすがった彼女を支えて、電車に乗り込んだ。

「先生」と、悲痛な響きを含んだ呼びかけの声に、あかりが両手で耳を塞ぐ。


そして――

電車は、走り出した。

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