放課後は、秘密の時間…
――行くな。


喉の奥まで出かかった言葉を、無理やり飲み込んだ。


「ほら、行け」


小さな背中をそっと押してやる。

手の平に伝わってきた振動に、彼女が泣いてるのだと知った。


早く、行って。

でなければ、引き止めてしまう。


この腕に閉じ込めて、無理矢理にでも、俺のものにしてしまうから。


砂の擦れる音と共に、あかりが一歩踏み出した。

その距離は、どんどん大きくなっていく。


いつの間にか溢れ出した涙が、頬を伝っていた。

あかりの姿を見つめていたいのに、それは滲んで景色に溶けた。


好きだ。

好きなんだ。


本当は行って欲しくないと、叫びたい。


――好きな人が幸せなら、自分も幸せ――


そんなの、嘘だ。

ただの、偽善にまみれた言葉じゃないか。


あかりの幸せを願う俺は、幸福なんか欠片も感じていない。


あるのは、胸をナイフで切り裂かれたような、リアルな痛みだけだ。


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