放課後は、秘密の時間…
『ねぇ、見て?――桜吹雪』


全てをさらうように吹いた淡い風の中で、君は流れる髪を片手で押さえて微笑んだ。


『きれいだね……』


キレイだったよ。

君と見る景色は全部。


一人で見ていたものが、どんな風に見えていたかも忘れるくらいに。


『髪、長くなったでしょ?大也のためだけに……伸ばしてるんだよ』


一房掴んでキスをすると、君がはにかんで俯く。

俺のためだけという言葉に、大げさではなく、胸が震えるほどの嬉しさを感じた。


『…だい、や……あたし……うれ、し……』


初めて体を重ねた夜。

シーツに黒い髪を散らばせて、君は唇を震わせて言った。


俺の下で、痛みに歪んだ顔を、精一杯笑顔に変えようとしながら。


汗が浮かんだ白い肌も、しがみついてくる指先も、涙に潤んだ黒い瞳も……

君を形作るすべてが、愛しかった。


ただ、愛しくて愛しくて、仕方なかった。


『もうっ……相変わらず、朝に弱いんだね?』


目が覚めた時、そう言って困ったように笑う君を見るのが、好きで。


君が毎日起こしてくれたから、一人で起きられなくなったっていうのに。

そのことを、多分、君は知らないんだろう。

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