放課後は、秘密の時間…
冷たい潮風が、手の平に残った彼女の熱を奪っていこうとする。

それを閉じ込めるように、拳をきつく握った。


せめて、あと数秒でもいい。

最後に彼女が俺にくれたものを、まだ感じていたいんだ。



――いつの日か、きっと。


時の流れと共に、全て消え去っていくんだろう。


記憶は新しいものに塗りつぶされ、胸に走る鋭い痛みも薄れるに違いない。

そして、彼女を強く想うこの気持ちさえも。


それなら、今はまだ、このままでいたい。


未来の彼女は俺の隣にはいない。

けれど、その過去の時間は、俺だけのものだ。


たとえ今がどれほど辛くても、あの頃は確かに幸せだったと言えるから。


思い出す度に生まれる絶え間ない痛みは、俺が君を想った証でもある。

だから、この苦しみも甘んじて受けたい。


近い未来、彼女の手を自分から離したことを後悔する日が必ず訪れるけれど。

ただ彼女だけを想ってきたことは、きっと後悔しない。


選んだ道は、正しかったのかそうじゃなかったのか。

そんなこと、俺自身にもわからない。


ただ今は願う。


彼女が笑えているように、と。

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