放課後は、秘密の時間…
チュ、と軽い音を残してぬくもりが離れていく。

まだ光りを眩しく感じる瞳に映ったのは、


「……いち、いちかわくん……」


あたしが担当してるクラスの生徒。


しかも、その距離、わずか5cm。

身じろぎするだけで、お互いの鼻先がくっついちゃいそう……


「え……あたし…もしかして夢?……にしてはリアル?」

「これが夢なら、俺、眠ったままでもいいよ」


クックッと笑いながら、市川君はまるでレモンを絞るみたいにあたしをぎゅうっと抱きしめた。

2本の腕に拘束されるその苦しさは紛れもなく現実のもので、ぼやけていた昨日の記憶が少しずつ蘇ってくる。


そう……そうだ。

長かった教育実習は、金曜日で全部終わって。


あたし、昨日は市川君と――……


「先生、柔らかい。こうしてると、壊れそう」

「……ッ」

「逃げないで。このくらいいいでしょ?それに」


市川君がイジワルに微笑む。


「最初に抱きついてきたのは、先生の方」


じゃあ、あのあったかい抱き枕は……

市川君本人だったんだ――!!

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