放課後は、秘密の時間…
吐き捨てるように言って、市川君の腕が一層強くあたしを抱きしめた。


「先生……」

「放してっ……!」


思い切り体をひねって暴れたあたしを、彼の腕が解放する。


だけど。

あたしは、完全に彼から逃れられたわけじゃなかったんだ。


「本当ムカつくよ。自分がどんな立場かわかってる?」

「……そ、れは……」


わかってる、でも。


「決めた」

「市川君?」

「先生、俺にキスしてよ」


暗闇に慣れてきた目が、市川君の輪郭を捉え始めた。

彼の口の端が少しだけ上がったのが、かろうじて見える。


あたしは、そのぼんやりとした影に向かって、震える声を抑えながら聞き返した。


「キスって……何言ってるの?そんなこと、できるわけないじゃない……」

「できないとか言える立場じゃないでしょ、先生」

「………」

「先生から俺にキスしてくれたら、今日のこと許してあげる。無視したことも、俺のこと、市川君って呼んだことも」


あたしから市川君にキス……?

そんなこと、絶対できない。


――大也がいるのに……

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