放課後は、秘密の時間…
学ランの襟を思い切り引っ張って、背伸びをする。


強く目を閉じて。


あたしは、息を止めて、市川君の唇に自分のものを重ねた。

一秒にも満たない、ほんの一瞬の間だけ。


でも、それだけでも……

大也への罪悪感と、市川君の言う通りにしかできなかった自分への腹立たしさが込み上げてくる。


滲み始めた涙が目じりに少しずつたまって……胸が、痛くて苦しい。


「これでいいでしょっ……」

「先生っ!」


すぐに離れたあたしの腕を掴んで、市川君が引き止めた。


「放してっ!!ちゃんとキスしたでしょっ!?」

「これのどこがキスなんだよ!?キスっていうのはっ……」

「いやぁっ……」


押さえつけてくる力に、必死で抵抗した。

思い切り彼の胸の辺りを押しのけたけど、あたしの弱い力なんかじゃびくともしない。


もう、許してよ。

これ以上、あたしに触らないでっ……!


伸ばされた腕を払って、夢中で両手を振り回した。


その時――、


パンッ……


そんな乾いた音が響いた。

< 42 / 344 >

この作品をシェア

pagetop