放課後は、秘密の時間…
戸惑ってるあたしを、市川君は何も言わずに放した。


足音が響いて、彼が開けたのか、倉庫の扉がゆっくりと開く。

暗闇に慣れた目には、差し込んでくる光が少しだけ眩しい。


「戻りましょ、先生」


いつの間に持ったのか、市川君の両手には絵の具が入ったダンボールがあって、


「俺はこっちを持っていきますから、先生は戸締りして下さいね」


突然、優等生の顔に戻った彼を、あたしは確かめるように見つめた。


さっきまでと全然違う態度。

口調だって、いきなり敬語に戻ってる。


「市川君……」

「何でそんな顔してるの?教師と生徒の関係を望んでるのは、先生の方だろ」


冷たく言われて、なぜか胸がぎゅっとなる。


……そうだよ。

こういうのが普通なんだから。


今までがちょっと変だっただけ。


なのに……

どうして、こんな気持ちになるの?


「べつに俺、諦めたわけじゃないから」

「え?」

「これくらいで先生のこと諦めたりなんかしないよ。絶対、先生に俺のこと好きだって言わせてやるから」


自信に満ち溢れた目をして、市川君はニッと笑った。

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