放課後は、秘密の時間…
「一応約束は約束だし。あんなのキスなんて言わないけどさ、先生の涙に免じて、今日は許してあげるよ」

「……市川君……」

「だから、先生。早く俺のこと好きになって、もっとすげーキスして」

「そんなことありえないってば!」


すかさず言い返したあたしを見て、彼がくっと笑った。


「仕方ねぇから、今は市川君で我慢してやる」

「え?」

「先生が俺を好きになるまで、拓真って呼ぶの待ってるから」

「よ、呼ばないってば!」

「そう言えんのも今のうちだけだって」

「呼ばないから!」


あたしの言葉なんか、まるで無視して、市川君は歩き出した。


「じゃあ行こう。そろそろ行かねぇと、本気で谷村が来るよ。そしたら困るし」

「?」


思わず、首をかしげた。


だって、さっき「自分は困らない」って言ってたよね?

優等生だから大丈夫だって、問題になるのはあたしだけだって、ハッキリ言ってたもの。


考え込んだあたしに、市川君は「だから」と付け足した。


「先生が問題になってこの学校から追い出されでもしたら、俺が困るの」

「どうして?」

「先生のいない学校なんて、もうつまんねぇから」


とびきりの笑顔でそう言われた瞬間。

ドクン、とあたしの胸が、大きく音を立てた。

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