放課後は、秘密の時間…
「うぅ~大也ぁ、笑わないでよぉ……」


肩を震わせて笑い続ける大也に不満を言おうと、顔を上げた瞬間。

あたしの視界には、大也の向こう側にいる彼が映った。


目が合って、気づく。


市川君が、無表情にあたしを見ていることに――……


「ごめん、もう笑わないから」

「……っ……」

「あかり?」

「う、うんっ。ほんと、ひどいよ?」


何もなかったみたいに言葉を返して、笑顔を浮かべた。

だけど、内心は驚いてた。


市川君のあんな表情、初めて見たから……


いつもあたしを困らせるときのイジワルな笑顔でも、倉庫に二人きりでいたときの怒ってる表情でもない。


なんていうか……

……感情の見えない目をしてた。


でも、べつに……市川君がどんな顔しようと、あたしには関係ないんだから。


そう思ってるのに、動揺してる自分がいるのも事実で、これ以上市川君を見ないように、あたしはそれだけを考えて食事を進めた。


でも、おいしい料理は全然味気なくて。

大也の話す言葉は、耳をただ通り過ぎていくだけ。


いくら彼のことを忘れようって思ってても、全然できない。

お店を出たあとも、市川君の表情は、まるで目に焼き付いたみたいに離れなかった。

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