放課後は、秘密の時間…
「そうだね」


少しだけ考えたみたいに黙って、市川君はすぐにまた口を開いた。


「先生の言う通りだよ。確かに俺には関係ない」


だけどその目は、「関係ない」なんて目を全然してない。

あたしを捉えたままの視線を一瞬も外そうとしないで、


「だから、さ」


彼が、ゆっくりと歩いてくる。

思わず立ち上がって離れようとしたけど、あたしの身体は痺れたみたいに動かない。


「先生が誰と付き合ってても、誰を好きだとしても」


一歩、また一歩……

あたしと市川君の距離が、少しずつ近くなっていく。


「俺には関係ないってことだ」


ふっと笑って、あたしの顔をのぞき込んだ。


「……そういう意味じゃな、」

「じゃあどういう意味?」

「だから、それは……」


どうしよう……

言葉が浮かんでこない。


何か、言い返したいのに。

言い返さなきゃいけないのに。


まるで、言葉が舌に張り付いたみたいに出てこない。

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