放課後は、秘密の時間…
「先生、着きましたよ」


ほとんど言葉を交わさないまま、あたし達は、いつの間にか美術室の前の廊下にいた。

市川君がポケットから出した鍵を戸に差し込むと、カチャ、と音がする。


「あれ、谷村先生は?」


谷村先生が中にいて、待ってるんじゃないの?

何で鍵がかかってるんだろ?


そんなあたしの疑問に、市川君が鍵を引き抜きながら答える。


「すぐ来るんじゃないですか?俺は先生呼んで美術室で待ってろって、この鍵渡されたんで」

「あぁ、そうなんだ」

「どうぞ」


中に入ると、少しほこりっぽい感じの、独特の匂いが鼻についた。

静かな室内には、あたしと市川君が二人きり。


……どうしよう……

会話が見つからない。


呼吸の音さえ響きそうなくらい、気まずい沈黙。


せっかく生徒との距離を縮められるチャンスだっていうのに、いざとなると言葉が浮かんでこなくて。


女子生徒とは気軽に話せたんだけどな……

とにかく、話題、話題……


あたしが何か話しかけようとした瞬間、


「先生」


市川君の方が、先に口を開いた。

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