放課後は、秘密の時間…
そんなあたしの思いとは裏腹に、シャツのボタンは次々に外されていく。


恐怖に浮かんだ涙が、目じりをつたってこぼれていった。


ぼやけた視界に映ったのは、美術室の窓だけ。

外はいつの間にか雨が降ってたみたいで、窓ガラスが濡れてる。


市川君が、ついにあたしのシャツを脱がせようとした、そのとき――、


「この辺でストレッチでもするか?」

「体育館は使えないだろ。他の部もいるし」

「そっスね。野球部はあっちの階段の方にいますし」


靴音と一緒に、何人かの生徒の声が廊下に響いた。

あたしの心臓が、一層速さを増して動き出す。


こんな場所になんか、この時間に普段生徒は来ないのに、どうして……?


ううん……

それよりも。


今のあたしと、市川君の姿を見られたら……


「しっかし、まいったよな~突然降るなんてさぁ」

「つめてぇ、俺なんか上ビショビショ。もう汗なのか雨なのか、わかんねぇよ」

「通り雨じゃないみたいだな。この調子じゃ今日はもうやまないだろ」


声の数は、どんどん増えていく。

あたしは息を潜めて、引き戸の向こう側を見た。


曇りガラスに人影が映ってる。


市川君も一瞬動きを止めて、廊下の方を振り返った。

その間もあたしの口は塞いだままで、彼の手の力は一向に緩まない。

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