放課後は、秘密の時間…
そこまで考えて、あたしは現実に引き戻された。

同時に、谷村先生の言葉がパッと蘇る。


『この書類を、六時までに持ってきて下さいね』


もう一度時計を確認すると――

18時10分!


「あぁっ!」

「先生?」

「市川君のせいだからねっ!」


驚いてる市川君を無視して、机の上と床に散らばっていた書類を掻き集めながら、あたしはペンをとった。


追い詰められているときって、どうしてこんなにすらすら仕事ができるんだろう?

あんなに悩んでいた指導方法の欄が、あっという間に埋まっていく。


わずか3分ほどでできあがったそれを持って、あたしはくるりと振り返った。


「いい、市川君?今日のことは、絶対誰にも言わないでよ!――それから、二度とあんなこと、しないでっ!」


思い切り戸を引いて、まとめた髪が乱れるのも構わずに廊下を駆け出した。

市川君が何かを言いかけたみたいだったけど、あたしは気にせず走り続けた。



職員室に書類を届けて、もう一度美術室に戻ったとき、市川君の姿はそこにはなくて。


「なんだ、帰ったんだ……」


安心してるのか、残念だって思ってるのか……よくわかんない。


って、残念なわけないよ。

あたし、何考えてるんだろう?

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