放課後は、秘密の時間…
授業を終えて、言われた通り中庭へ向かうと、


「二宮先生」


大きなイチョウの木の下に、彼はいた。


「こんなとこに呼んで、何の用なの?」

「先生さぁ、オレの名前知ってる?」

「名前?」

「オレ、2-Aの堤。知らないでしょ?」


言われて、あたしは頷いた。


生徒名簿を見てあたしが覚えたのは、配属された2年C組の生徒だけ。

他のクラスについては、特に目立った生徒以外は、そう覚えられないんだ。


「だよね。先生にとって特別な生徒は、C組の市川だけだもんなぁ」

「……っ……」


やっぱり……

彼は市川君のことを知ってるんだ。


「ちなみにオレ、サッカー部。ここまで言えばわかる?」

「……それじゃあ、あの日……」

「そう、雨が降ったあの日。オレだけはすぐに分かった、ロッカーに隠れた先生達のこと。他のヤツラは、床に散乱した書類にすら気づかなかったみたいだけどね」


カタカタと、小刻みに膝が震え出した。

外は晴れているのに、あたしの目の前だけは、まるで夜みたいに真っ暗だ。


この先のことを考えると、立っているのがやっとで。

何か言わないとって思ってるのに、言葉が出てこない。


「でも安心してよ。べつに誰にも言わないから」

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