last.virgin
「ほえぇっ?!」
急に肩を捕まれて身体を揺さぶられ、俺を見上げる遙の口からすっとんきょうな声が出て。
その顔に掛けてある眼鏡が激しく歪んでフレームが左耳からずり落ちてしまっていた。
そのフレームが丁度左耳のピアスを隠すような形になってしまっていたので、俺はもう一度そのピアスを確認しようと、遙の顔から眼鏡を外した。
左耳を指の間に挟み、両手で遙の顔をグイッと持ち上げ顔を近付けて、それを繁々と見つめた。
同じ物に間違いない。
………昨夜の相手…
…この娘だったんだ…
「…あっ…あのっ」
遙が俺の両手首を、離して下さい。と言わんばかりに握ってきて、俺はさらに小さな彼女の顔を上に向かせて、その顔を真正面から捉えた。
改めて遙の顔を見てみると、化粧気は無く、小さな顔の割りに、大き過ぎる位の瞳が、怯えて涙を溜めているように見えて。
少し低めの鼻の下の唇は微かに震えていた。
……まるで子供じゃん…
まるで子供のよう幼く、小動物のように怯えている彼女に対して、物凄い罪悪感と後悔と謝罪と、とにかく色んな感情がいっぺんに襲ってきて、その体制のまま固まってしまった。
「…何やってるか、聞いていい?」
俺達以外誰も居ない筈の給湯室から別の声が聞こえて、そちらに目をやると、戸口の前に英明がニヤニヤしながら俺達に視線を向けていた。
「全然戻って来ないからさぁ…見に来てみたら…これだもんなぁ…」
考えてみると、今の俺達の体制は誰の目から見ても、誤解を受けてしまうに違いない。
「はっ…離さんねっ」
「えっ?…ちょっ!」
言いながら遙は俺の手を振りほどき、戸口に立つ英明の横をすり抜けて給湯室から出て行ってしまった。
……今、変な事言わなかった?