last.virgin
午前の業務が終わると、俺は待ってましたと言わんばかりに椅子から立ち上がる。
「修二、今日何食う?」
英明が両腕を伸ばし椅子の背もたれに寄り掛かり、延びをしながら聞いてきて。
「英ちゃん、今日は俺、用事あるから、悪いけど…」
携帯をポケットにしまいながらそう言うと。
「用事?…そんじゃ、さっきのあの娘、誘おうかな?」
「ダメ、俺が用事あんの、その娘だから…」
「は?…お前そんなんじゃないって、言ってなかったっけ?」
「……じゃ、そう言う事で」
「ちょっ…修二っ…」
早くしないと彼女も外へ出て行ってしまうかも知れない、英明の声を背中に聞きながら、遙のデスクへと向かった。
幸いにも彼女はパソコンの画面に向かっていて、まだそこに居た事にホッとした。
近付きその小さな肩にポンと手を置くと、彼女は大袈裟にビクッと肩を震わせた。
「……ちょっと、いいかな?」
「あれ?坂口さん、ランチ行かないんですか?」
隣のデスクの里奈がそう言ってきて。
「里奈ちゃん、英ちゃんがランチ一緒に行かない?って言ってたよ」
「え?田村さんが?」
「うん。俺、ちょっと急ぎで経理にコレ出さないといけないんだ…」
ポケットから遙の封筒を取り出し、さも領収証です。と言わんばかりに遙のデスクにそれを置いた。
「だからさ?英ちゃんが里奈ちゃんにそう言って来てって、俺はまだ行けそうにないから…」
「じゃ、お先しますね?遙ちゃん?ごめんね?行ってきます」
「……はい、行ってらっしゃい」
里奈は嬉しそうに財布だけ持ち、椅子から立ち上がると、こちらを伺うように見ている英明のデスクへと向かって行った。