last.virgin




「……修二…八回目だ…」


「は?何が?」


「お前が経理のデスクの方、振り返るの…」


「えっ?…」



自分でも無意識の内に、何度も後方にある経理のデスクを振り返ってしまっていたみたいで、英明に指摘され、慌てて視線をパソコンの画面に戻した。



当の遙本人はそんな俺の視線に気付く筈もなく、今朝までは怯えた小動物のようだと思っていた彼女は、意外にも逞しく、仕事もそつなくこなしているようで。



何度も書類を片手に立ち上がり、あちこちとデスクを移動しては再びデスクに戻り、パソコンに打ち込んでいく。



新人とは思えない程の彼女の仕事振りに関心しつつ、コーヒーを啜りながらマウスでレイアウトを決めていく。



「……なあ、修二」


「…ん〜?」



コーヒーを啜りなから英明に生返事を返すと。



「お前の昨夜の相手って、さっきの眼鏡っ子だろ?」


「!っ、ぶはっ!」


「うわっ!汚なっ!」



コーヒーを吹き出してしまった。



「なっ、んでっ…ゴホッ!ゴホッゴホッ!」



何でわかったんだと聞こうとしたんだけど、コーヒーが気管に入ってしまい、激しくむせ返ってしまった。



「あはは、やっぱり?ビンゴ?」



俺の背中を擦りながら英明はそう言ってきて。



「ゴホッ、何で、ゴホッ、わかったんだ?」


「あの娘も昨日の合コン来てただろ?さっきは眼鏡無かったから気付かなかったけど…あの娘里奈ちゃんの隣に座ってたから、お前が居なくなったと思った時、彼女の姿も消えてたから…」



鋭い洞察力をお持ちで……。



「昼休みになった途端に携帯と灰皿間違えて、あの娘の所に急いで行って…戻って来てからも振り向いてばかり…もしかして修二お前…」



英明は俺の耳元に顔を近付けてきて。



「……惚れたな?」



洞察力に比べて推理力までも…



…英ちゃん…プログラマー辞めて、探偵でも食っていけるよ…





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