last.virgin
業務終了と共にオフィスを出て、ビルの前にハザードを点けて車を停め、遙が出てくるのを待ち伏せしていた。
結局昼飯も奢れず、金も返せず、アドレスも聞けず…
何もかもが思うようにならずに一日が終わってしまうのが腹立たしかった。
待ち伏せなんてストーキングしてるみたいで、いい気はしないが仕方ない、情けないがこれしか思い付かない。
…仕切り直しだ。
ビルの入口を見つめていると、目当ての彼女が姿を現して、俺は慌てて車を降りた。
「遙っ!」
「ほぇ?…坂口さん…」
彼女は立ち止まり、俺は車から離れて彼女の元へ。
「…よかったら、俺と付き合ってくれっ」
今まで告白なんてした事もなく、かなり緊張して、物凄く照れ臭いが、いろんな小細工は無しにして、英明が言っていたように、いきなり直球を投げつけた。
「今からですか?どちらまで?」
「は?」
「あ。もしかして仕事の話しですか?私、なんか失敗しましたか?会社戻ります?」
もしかして……
……伝わってない?
いきなり過ぎたんだな?うん。きっとそうだ。
先ずは晩飯に誘って…ゆっくりと話しをしてから…
「…いや…仕事の話しじゃなくて…よかったら送ってく行くよ、昼飯奢り損ねたから…今から…晩飯にでも行かない?」
「でも私…これなんです」
遙は手に持っていた物を持ち上げた。
「……ヘルメット?…バイク?」
「はい…それに今日は、実家から宅配便が届くんです、時間指定してるんでもう帰らないと、気を使って下さってありがとうございます、坂口さんって話しやすいし、優しいし…ホントは真面目でいい人なんですね?」
そう言ってニッコリ笑うと遙はビルの前に並べられた、駐輪場から、鮮やかな紫色のバイクを引っ張り出し、ヘルメットを被ると、それに股がりキックでエンジンをかけた。
ホントにこの娘は、他の女達とは違いすぎる…
「それじゃ、お疲れ様です」
そう言って俺の横をバイクで走り抜けて行く彼女の姿は、男の俺から見ても格好よく、ただ呆然とその後ろ姿を見送ってしまった。